風の色

風の色(四十二)
2022.06.26

風の色(四十二)
私は、この春に定年まで六年もの歳月を残して三十二年間の教職を辞した。
時の流れは早く、はや三週間を過ぎようとしている。
新聞発表や風聞で知り得た多くの方々にお会いして頂いた言葉を連ねてみる。
先ず、「長い間ご苦労様でした」という労い、「おめでとうございます」と、祝福と激励を頂いたかと思うと、逆に「よく決心されましたね」「本当にびっくりしました」「勿体なかったですね」「何も今辞めなくとも」という寧ろ教職の方が似合っているようだし、それにサラリーマンの方が楽なのに何やら無鉄砲な決断をしたという憐憫の入り交じったご厚情を頂いた。
中でも「正直云って奥さんが気の毒ね」という最も現実的に収入を閉ざされかねない無責任さを揶揄したようなお言葉には、今なお深く胸を痛め続けている。
どの言葉も自分にとって勿体ない有り難いものばかりで感謝している。
就中「おめでとうございます」は、前途を祝して下さるようで何よりだった。 
今後、佛法の布教と寺門の経営に心から支援して下さる温かいお気持ちこそが私の命を心底から支えてくれると思うからであり、たとえこれからの道がどんなに険しいものでも、その言葉が、唯一「ご本佛の御心」と思って精進の励みになるからである。
さて、そのような私の勝手な思いは思いとして、檀信徒の皆様をはじめ多くの方々は、当然の事ながら、何一つ今までどおり変わるところがないのも現実である。
もしもこの現実が永遠に続けば、きっと決断した意味が問われることになるだろう。
ご本佛の御心に沿っていくしかない道を、頼りない草鞋だが紐を締め直して徐々に歩き始めるつもりである