風の色

風の色(十三)
2021.11.14

風の色(十三)
多分中学二年の頃だと思う。
知らないうちに出家得度させられていた。
このことは大分後になって分かったことで、しかも師父から直接ではなく母から聞かされ、半ば諦めて自暴自棄に陥っていた。
師父は全く問答無用でその手続きを内密に済ませていた。
私にしてみれば、反抗も出来ず、長い間心の奥底で悶々と悩み続けていた。
しかも、トコトン性根を鍛えようとする師父の強い波で自我意識さえ溺れそうになり、一時もその葛藤から解き放される事はなかったと思う。
信仰はそのような為にあると思って何度か心が晴れるならばと本堂で独り読経と唱題に集中したが、所詮哀しく虚しい涙が流れるだけで避けがたい宿命のようなものにおののき、不安は募るばかりで行き場を失いかけた事はしばしばだった。
最近、何故か青年期の頃に回帰する日が多い。
ある意味で老いの始まりではないかとひそかに考えている。
それに、今になって尚も当時の事が夢に現われて心を傷めているからである。
その頃は、喩えようがないくらい心が荒んでいた。社会や人間に対する不信感、常に心の中に潜む猜疑心、所謂、地位や名誉があり、しかもお金持ちと言われる人の偽善的な振る舞いとそれに隠れながら横柄で傲慢な態度に、ひ弱な声だったが「断じて許せないものは許せない!」と心の中で叫び続けていた。生まれてこのかた、数多くのえにしの糸が何本か体内から離れつつあるが、その内の何本かの糸が切れないでつながっていることを自分の心がよく知っている。
この糸こそが青年期のもので、きっと未来永劫切れないような気がする。何故なら、この糸こそが今の私の心を支えてくれているから。