風の色
- 風の色(二十一)
- 2022.01.16
風の色(二十一)
数日前の夕方、ある営業マンが訪れた。
彼は、丁寧かつ明るい表情で商談を持ちかけてきた。
一通りのセールスポイントを述べたが、一向にその話に乗っていない私の応対ぶりを察してか、別な話題に移る。
そこは玄関内、こんな事はままあることだが、どうやら地元の方なので、気の毒に思い、少しお付き合いした
話題は、「お寺さんて良いですね」ということから始まった。
何故かと聞くと、広くて静かで落着いていて生活環境が羨ましいとのこと。
また、精神的にも宗教心に裏ずけられた安心感があり、それに、経済的にも裕福で言うこと無しという。
どうやら自分の菩提寺の事を言っているようだ。
こちらが聞き上手になってうなずいていると、次第に本音の部分に調子が移ってきた。
前に言ったこととは裏を返すように、何かというと寄付金、戒名まで金次第、それに葬儀や法事のない日は、遠く海外や温泉への旅行と、悪口が首を出してきた。
やはりそう話しているうちに顔面からも笑顔がなくなっているのである。
私は、お寺に対する正直な世評を、この青年から聞くことができ有り難かった。
それは、大なり小なりお寺に対するこのような考え方は、殆どの人々の心の中にあることで、面と向かって話さないだけでのことである。
何ともやるせない気持になったが、これだけは言っておこうと思った。
菩提寺の悪口を言えば天に唾を吐いているようなもの。
お寺を良くするのも悪くするのも檀信徒次第。
お寺を良くしようとするならば進んで良いお寺作りに献身すべし。文句を言うならそれからと。
この青年はひょっとしたら観音様の使者かしらと帰る姿に掌を合わせた。