風の色

風の色(三十二)
2022.04.10

風の色(三十二)
前回に続き「変化の人」との出会について触れて見たい。
かつて唱題行(精神統一してお題目を唱える行法)がご縁で、全く思いもよらない未知の方、O婦人と出会い、有り難い慈恩に浴したことを述べる。
これこそ一念信解の妙用というか、本佛のはからいそのものと悟ったからである。
当時、O婦人は神奈川県の一村から数時間かけて、東京は練馬区の釈迦本寺(唱題行の道場)に参拝され唱題行に専心されていた。
彼女は岩手県和賀郡のご出身でこの道場の化主である権藤上人から私のことを聞き及び、早速に、同郷を懐かしみつつ実家にあるご先祖の供養の一分として当山宛に相当のご寄進を届けられた(発菩提心)。
現在の庫裡の正面玄関は彼女の菩提心によって出来あがったものである。
次いで、法衣や佛具等お心のこもった布施行にあずかり、まさに「変化の人」をして本佛が私に対して更なる精進を励めとの黙示と了解した。
その後、彼女とは何度かお会いしたが、お題目に無関心なご主人を何とか導き入れたいと事ある度にお話されていた。
その後、ご夫妻で当山を訪れる機会があり本堂で簡単な法要を営んだ際に、何とご主人の口からお題目の声が流れてきた。
彼女は、嬉しさの余り目頭を押さえておられた。
彼女の燃えたつような利欲抜きのお題目信仰は、遂にご主人の佛性をも呼び覚ましたのである。
とかくこの世は「あぁして下さい」「こぅして下さい」という己の願望を優先する信仰態度がはびこっているが、やはり彼女のようでありたい。