風の色
- 風の色(三十三)
- 2022.04.17
風の色(三十三)
つい先日、久慈高校の卒業生N君が二十数年ぶりだろうか、何の予告もなく来訪した。
彼は、私が顧問だった郷土史研究会というクラブ活動の一員だった。
やや風変わりで、いつも寂しい後姿が印象的であった。
何時ものことで、学校からの帰途、私の下宿を見れば既に窓は明るくなっていた。
彼が勝手に部屋に入り込んで、私が読みかけていた佛教等に関する本を読んでいた。
私が帰ると「お邪魔してます…」と言ってお茶を沸かして待っていた。
ある日、急に夜中に起こされたことがあった。
玄関に出てみると彼の顔面が涙でクシャクシャ、理由を聞くこともなく静かに床につかせた。
余程の悩みがあったものと察したが、翌日もそのわけを聞き糺すことはなかった。
結局、いろいろなことがあって佛教系の大学に進学したが、三年で中退、窯業に一縷の望みを託して技術を身につけ窯場まで興して独立したが、理想と現実に悩みつつ、酒に身をやつす日々を送っていたらしいが、その後は知る由もなく現在はある宗教団体の幹部。
時を越えても彼と私は以前と何一つ変わっていない。
「実は、自分の今ある姿の九九%は先生なのですが……」
「もともとから君の心中にあった佛種(佛性)に縁を与えただけのこと」
「それを今までの人生の中で芽を育てて様々な花を咲かせてきたと思う」
「そうでしょうか、…………」
「いずれ最終的には蓮華の花であって欲しいが………」
雨の中、彼を見送りつつ、彼との新しい縁が始まることを予感した。