風の色

祈りと信仰(十九)
2023.03.26

祈りと信仰(十九)
今春定年退職されるN氏とほんの一時お話をした折のことである。
私は、今迄お世話になったことに感謝申し上げた後、今後の事についてお尋ねした。
「どちらにお住まいになられますか。」
「K市になると思います。」
「ご自宅にお戻りですね。」
「いや、僕は生まれた時から貸家住まいでしたのでこれからも狭いアパートで暮らすつもりです。それに子供たちも独立していますので気楽です。」
「…………。」
この方は、昔から熱心な法華経の愛読者であって、信仰の信の字も言葉に出した事の無いのだが、風格はゆったりしていてどこからでも包んでくれそうな親しみと優しさが溢れておられる。
所で、先刻ラジオから耳に飛び込んできた言葉が妙に忘れられない。
確か「私たちの取り巻く環境は地球からの借り物」というものだった。
もともと自分の財産などにこだわらないN氏のような方は、すべて生かされてと大悟しているから「菩薩界」の人である。
悲しいことだが、何時も自分のものという欲に駆られて過ごしている凡夫は、ものを失う事を通じて心が晴れずいよいよ苦を重ねる。
しかし、菩薩にも人間にも佛界ありとする態度が法華経である。
幸いなことに、心の持ち方一つで「人間界」から「菩薩界」に住むことが出来ることをN氏から教えて頂いた。